column

コラム

自社でオンライン研修をする上での注意点を克服

新たな学びを構築する日本フューチャーラーナーズ協会です。

2021年度の研修の実施は、すでに昨年度の経験もありオンライン研修への切り替えがだいぶ進んでいる印象を受けます。しかし、2年目で慣れてきたとはいえ、まだまだオンライン研修と従来のリアル(集合)研修の「違い」が原因で、トラブルに見舞われてしまうケースも多くあるようです。

今回は

・オンライン研修を実施する上で、トラブルを避けたい人

・リアル(集合)で行っていた研修をこれからオンラインに切り替える人

・昨年度オンライン研修を実施してみたが、効果に手応えが感じられない人

に向けて、改めて「オンライン研修」そのものの問題点を振り返り、注意すべきポイントを事例とともにピックアップしてご紹介していきます。

お話を伺ったのは、トレーニングパフォーマンスコンサルタントとして活躍されている渡邉規和氏です。これまで多くのオンライン研修をデザインし、ファシリテーションすることで、運営側の現場と学習者側の双方の視点をもっています。今回は、講師、運営担当、学習者の3つの視点から、オンライン研修のありがちなトラブルと対策についてお話しいただきました。

・・・
略歴:新卒でパーソルキャリア(旧インテリジェンス)入社。結婚式2週間前に買収拠点である仙台に異動、仙台支店長、仙台市若年未就業者支援事業責任者。東京帰任後、BPO事業PMとして新規受託案件を9つ立上げ。出資会社KDDIまとめてオフィス人事部出向。人事コンサルタントを経て、2018年富士ゼロックス総合教育研究所入社。2019年7月会社ごとパーソルグループ入りし、古巣に出戻り。現在はトレーニングパフォーマンスコンサルタントとしてオンライン・リアル(集合)あわせて年間約120日登壇。

 

オンライン研修で機材由来の失敗例と対策

すでにオンライン研修は経験済みで慣れてきたという企業でも、まだまだ機材や設定によるミスが見られます。今でも犯してしまうミスについて事例を挙げてみました。

 

「解除したつもり」のマイクミュート

マイクのミュートの解除し忘れによって話が全く聞こえていないミスは、オンライン研修に慣れている講師でもうっかりやりがちなミスです。学習者には聞こえていると思って意気揚々と講師が話し続けますが、「先生、ミュートです」と言われて慌ててマイクミュートを解除し再度話し直す。講師にとっても再度話し直さなければならず、進行が乱れる要因となります。

 

違う画面が映ってしまった画面共有

画面を共有する講師にとって画面共有中は、きちんと学習者に見せたいスライドが映っているか、確認しづらい環境にあります。特に、スクリーンをPCの1つのみでファシリテーションしている際はなおさらです。また、学習者に見せる資料が多い場合は、どの場所にどの資料を置いたか迷子になってしまうことも。例えば、本来は学習後に解答スライドを映したいのに、誤って先に解答を見せてしまったり、学習者には見せないシナリオや進行表が見えてしまったり。すると、学習者の学習効果も下がってしまいます。

 

チャットの受講者コメントが拾えず放置状態に

チャットは研修の進行を妨げずに、学習者から質問や感想を表明できる、とても便利な機能です。一方で、「質問があったらチャットにコメントを送ってください」とガイドしておきながら、講師が研修の進行に夢中になりすぎてコメントを拾い損ねてしまうケースがみられます。すると、学習者に「もしかして、無視されたのではないか?」という印象を与えてしまい、研修中のモチベーションが下がってしまうかもしれません。

 

使用するツールの最新バージョンに戸惑ってしまう

ある程度操作にはなれていても、利用するオンラインツールのバージョンアップと共にデフォルトの設定が変わってしまうケースがあります。ツールを最新バージョンに更新したことで、過去のバージョンで慣れた設定まで変更されてしまい、研修中になってはじめて気づき、学習者から指摘されて焦るという場面もあります。特にZoomは2020年春からセキュリティのレベルを上げるリリースが立て続けになされたことにより、機能が追加され、インターフェースが変わりました。例えば、セキュリティボタンにて、学習者のチャットや画面共有を制御できるようになりました。制限するつもりはなくても、学習者から「チャットが送れない」、「画面が共有できない」、といわれたことありませんか。TeamsもWebex Meetingsも同様です。今後も、どんどんと開発が進み、最新バージョンがリリースされるとインターフェースが変わり、操作方法が変わることはこれから起こると想定しています。

以上、ちょっとしたミスに思えますが、こうした「ちょっと」が積み重なると、「せっかくの学習体験」を大幅にそこねてしまいます。
このような機材上のミスを防ぐためには、どうしたらよいでしょうか。
私は2つ心がけています。具体的には、
1.チームを組んで進行すること
2.事前準備を徹底すること
です。

まず、1点目は「チームを組んで進行すること」です。
講師とは別に、機材の設定や操作、進行をサポートする担当とともに「チームで研修を進行すること」が重要です。講師一人で研修の進行とZoomの操作や設定を並行すると、チャットの見逃しやマイクミュートの解除し忘れが発生しがちです。また、どんなに万全の準備をしていても、機材のケーブルが抜けたり、雷が落ちて停電したり、想定しきれない突発的なトラブルに見舞われることがあります。研修の進行を、サポート担当にも共有していれば、講師側にトラブルが起きて研修が中断しても、即座に代わりに進行を担い、中断を最小限にとどめることができます。通常の進行でも、サポート担当との間で、あらかじめ役割分担をしていくと、連携がとてもスムースです。例えば、チャットの対応のケースでは「学習者からのチャットの確認と返信はサポート担当が行う」「講義内容に関わり、講師から回答が必要な際は、サポート担当から講師に一声かけて回答を促す」等、チームのルールを決めておけば、講師は研修の進行に集中することができ、学習者も学習に集中できます。

2点目は、「事前準備の徹底すること」です。
あらかじめ一通りの進行を、ツールやデバイスの活用も含めて、チームで打ち合わせ(ウォークスルー)しておくことで、画面の切り替えや、ワークの指示のチャット送信のタイミング等、進行上のうっかりミスを減らせます。
また、特に最新バージョンの操作感の戸惑いは、事前にウォークスルーを行うと気づきやすくなります。
ポイントは、リハーサルではなく、ウォークスルーを行うことです。
何が違うか、というと、リハーサルは自分たちのため、自分の役割を遂行するための確認にとどまりがちな一方で、ウォークスルーでは、「学習者・受講者の立場」も含めて、流れや連携を確認することを重視する点が異なります。
研修はあくまで、学習者中心であるべきです。ただでさえ、オンライン環境で、身体性をそがれてしまう中での学習ですから、学習者の気持ちに寄り添いつつ、どのように感じるか、まで意識して備えておく(ウォークスルー)しておくことがとても大切です。

トラブル時に咄嗟にその場で「瞬間芸」で、なんとか乗り切ってしまう講師もいらっしゃいます。これはこれで素晴らしい能力ですが、次は同じトラブル繰り返さないように準備に反映することが大切です。学習者は昨年度と比べるとオンライン環境に慣れています。特に2021年の新入社員は、学校の授業も就職活動もオンライン環境でしたから、なおさらです。

オンライン環境に慣れている学習者とともに学ぶとき、以前やってしまったミスを繰り返すようだと、「あぁ、またか」と思われてしまう、学習者にとって致命的な影響となりかねないのです。素敵な学習者体験を奪ってしまうような最悪のケースをも視野に入れて想定しながら事前準備を行なうことをお勧めいたします。

 

オンライン研修特有の進行での失敗と対策

機材上のトラブルだけでなく、講師がオンライン特有の事情に合わせられずに発生してしまった失敗もあります。

 

講師の名指しがプレッシャーになってしまう

オンライン研修中、まだ場が十分には温まり切っていない段階では、「全員の前で発言すること」はとてもハードルが高い行為です。
特に若い学習者だと、「間違えたくない」「皆の前でミスしたくない」と、守りの姿勢に入ってしまい、正解探しをしてしまい、本音が出てきづらくなりがちです。
オンライン研修においては、名指しされてから話すまでの間、他の学習者はミュートですから、場がシーンと静かになりがちです。そんな環境で、せっかく勇気を出して答えたのに、講師からネガティブなフィードバックを受けてしまうと、「もう、次回から答えない!」と心を閉ざしてしまいかねません。また、それをみた他の学習者も「この研修では、間違えてはいけないんだ・・」とプレッシャーを感じてしまい、余計に閉口しがちになります。
場が温まる前に講師から名指しされ答えることは、学習者にとって大変プレッシャーが高いことです。

 

集中力が切れやすい環境と進行

研修の中身は一緒だったとしても、学習者の環境はリアルとオンラインでは違います。リアルの教室であれば講師も五感と広い視野を活用し、学習者の全体の様子や反応を見ながら研修を進められます。しかしオンラインでは、限られた画面の視野と強弱のないスピーカー越しの聴覚でしか雰囲気が掴めません。さらに、学習者は画面の前に一人でいるために、ほかの学習者の視線が気にならず、話しかけられることもありません。さらに周りにはスマホや雑誌がおいてあるなど、集中力が切れやすい環境ともいえます。
この集中力が切れやすい環境に輪をかけて、講師側からは、学習者の反応が感じ取りきれない、つかみづらい状況です。それゆえ、講師が一生懸命話し続けてしまい、一方的な講義が続くことで、さらに学習者の集中力をさらに削いでしまう、これでは悪循環です。学習者は集中力が切れていますから、講師は講義をやり終えて、教室での研修と同じように進められたと思っていたとしても、実は学習者は研修の内容を理解できていない、ということも。

これら上述の進行上の失敗は、講師が対面上の研修と同じ認識でオンライン研修を進めてしまうことに起因します。確かにオンライン研修は学習者の雰囲気が感じ取りにくいなど、リアル(集合)と異なる点も多々ありますが、しかし、オンラインツールを効果的に活用することで、失敗を回避し、オンラインならではの価値ある学習体験を提供することができます。

まず、オンライン研修で学習者の参加を促すには、「参加のハードルは低いところから徐々に上げていく」ように設計しましょう。学習者の感情をも意図して研修をデザインするのです。
すると、いきなり名指しで学習者に答えさせるのではなく、徐々に答えやすくなるように質問を設計することでしょう。例えば、最初は回答に不正解も正解もない質問を投げかけます。「お昼を食べましたか」「お昼に何を食べましたか」などです。これであればすべての回答が正解ですから、自由に答えやすくなります。回答することに慣れてきたら、徐々にハードルを上げていきます。例えば、選択式で答えてもらったり、複数の妥当解がある質問に答えてもらったりします。だんだん学習者もオンラインでの回答に慣れてきてようやく、自由回答や意見を表明してもらう質問を投げかけることが可能になります。こうして、学習者一人一人がまるで「スロープを登る」かのように、気が付いたらいつの間にか、自ら主体的に意見を語り合えていた、こんな状態を設計し、導くのがオンラインファシリテーター(講師)の役割です。

オンラインツールの機能を活用することで、より学習者の反応を受け取り、研修への参加を促しやすくすることができます。
例えば、リアクションボタン。「手を挙げる」「拍手」「賛成」「泣き笑い」など、学習者がボタン一つで反応を表現することができます。この機能は、反応の表現のほかにも、状況の確認にも活用できます。例えば、研修中に全員がテキストの同じページを開いていることを確認するために「テキスト○ページを開いたら手を挙げるボタンを押してください」「全員の手が挙がったら次に進みましょう」と呼びかけることで、実際に指示が伝わっているか、準備が整っているか、を確認しながら、着実に学習を進行することができます。

また、チャットも効果的な機能です。
教室での研修では全員の意見を全員が同時に理解するには大変時間がかかります。書き出して貼りだしたり、一人ずつ発表したり。しかし、オンラインではチャットに書き込んでもらうことで、一斉に同時に意見を表してもらうこと、学習者同士で即座に互いに確認しあうことができます。教室での集合研修を、ただそのままオンラインに置き換えるのではなく、オンライン研修の特性やツールを理解して研修を設計しなおすことで、学習効果を高めていきましょう。

 

慣れてきた頃の研修が一番危険!オンラインでの学習を設計する力が大切

急遽オンライン化を果たさねばならなかった2020年と比べて、2021年はひとまずオンライン研修を経験したからか、「今年は大丈夫」と思っている企業や講師が見受けられます。しかし、本当にそうでしょうか。学習者側も同じく、オンラインでの経験を重ねて慣れています。そして、研修に対する期待値は確実に高まっています。昨年度と同じ内容の研修だからといって、振り返りもなく同じように実施すると失敗するどころか、学習者の研修に対する期待を満たせないことになりかねません。

学習者として受講することと、登壇者としてファシリテーションすることは、似ているようで全く異なります。「わかる」と「できる」は異なります。オンライン研修を受けたことがあるからといって、オンライン研修を何の訓練も準備の無く行うのは大変危険です。2年目で慣れてきた頃だからこそ、失敗を振り返ったり、オンラインの特性を理解した上で研修内容の構成を見直したり、事前にしっかり機材のリハーサルなど準備を行うべきです。

日本フューチャーラーナーズ協会では、研修担当者や講師がより効果的なオンラインの学びの提供を提供できるようになるため、ブレンディッドラーニング・デザイナー養成コースを提供しています。講座内では、ブレンディッドラーニングとは何か、から始まりデジタルツールを利用した学習の旅(ラーニングジャーニー)や、学習プロセス、コンテンツのデザインとファシリテーションを、基本から学べます。講師やコンテンツからの学習に加えて、学習者同士がともに学びあうコミュニティです。参加いただくことで、きっとより一層オンライン研修での学びの提供をバージョンアップしていけることと思います。

 

「ブレンディッドラーニング・デザイナー養成コース」の詳細はこちら