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コラム

ブレンディッドラーニングについて、あらためて考えてみよう

新たな学びを構築する日本フューチャーラーナーズ協会です。今回は、私たちが提唱している学びの手法、「ブレンディッドラーニング」についてあらためて考えてみたいと思います。

新型コロナウィルスの流行や働き方改革などもあり、企業活動のオンライン化は急速に進んでいます。日常の業務をはじめ研修の数々も昨年から段階的にオンライン化され、企業は今まさに働き方/あり方において変化の渦中にいるかと思います。今回のコラムでは、特に変化の著しい企業内研修をフォーカスし、その手法として私たちが予てから提唱している「ブレンディッドラーニング」についてあらためてお話ししたいと思います。

今回のコラムは、当協会の理事でもある小仁聡の近著「ブレンディッドラーニング」(フローラル出版)からの引用・抜粋を多く含みますが、これらは同時に日本フューチャーラーナーズ協会が提唱しているブレンディッドラーニングの考えを代弁しているものでもあります。絶えず進化している学びの分野にあって定義の定まることのないブレンディッドラーニングではありますが、4月からの新年度がいよいよ本格始動し始めたこのタイミングであらためて皆さんと考えを共有したいと思います。

 

ブレンディッドラーニングとは

ブレンディッドラーニングとは、同期・非同期、オフライン・オンラインなど複数の提供手段のほか、学習のメディアや講義、チャット、アンケートなどの学習活動まで、あらゆる要素をブレンドして実施する学習スタイルのことです。つまり、複数の学びをブレンドして新たな学びを構築するわけですが、その目的としては「パフォーマンスの向上」に他なりません。

ブレンディッドラーニングは効果・効率・コストという3つの要素をすべて最適化しながら学習を最大化します。そこには教育学にもとづいた学習理論の応用やテクノロジーの活用などが不可欠であり、これらをきちんと抑えておくことで最適な“設計”が可能となるのです。ブレンディッドラーニングは設計次第と言いますが、それはつまり“ただブレンドして組み合わせるだけ”ではないということを端的に表しているのです。

ブレンディッドラーニングの定義は未だ確立されておらず、絶えず進化し続けている学びの手法とも言えます。まだ見たことのない新しいブレンド方法はまだまだあるはずですし、テクノロジーも進化しています。学びの分野においては、今後まだまだ発展し得る領域一つと言えるのではないでしょうか。

 

ブレンディッドラーニングのもたらす効果

ブレンディッドラーニングを導入することで、企業研修はどのように変わったのか。ここでは導入したことによる効果・メリットについて4つほどお話ししたいと思います。

・「点」を「線」にする学習設計(イベントからジャーニーへ)

従来の研修は、「研修を行うこと」が半ば目的化され、「どのような研修を何回、何人に行ったか」が重視されていました。そこには本来の研修の目的である「従業員の成長、それによる会社の成長」という視点が欠けています。研修が点として存在し、本来のゴールまでつながってないのです。

一方、ブレンディッドラーニングは、研修で学んだことを「知っている」だけではなく、現場で「できる」ようになるまでをサポートする、つまり「定着とその後の職場での発揮」までしっかり線でつなぐことができるという強みがあります。それはつまり、ブレンディッドラーニングを企業研修に取り入れることで、従来の「イベント型研修」から「ジャーニー型研修」へ移行できるということです。

 

・効果・効率・コストの最適化(3つの制約からの解放)

研修をオンライン化することでコストは大幅に削減できます。またオンライン研修・オンライン学習によって効率も上がります。そして学習理論を応用しながらオンラインの自己学習を行えば、効果も担保することが可能です。大切なのは、効果・効率・コストの3つを「制約」と捉えるのではなく、最適解を導き出すために両立可能な要素であると理解することです。

 

・職場を中心とした学びの文化醸成

これまで考えられてきた研修中心の学びという発想ではなく、職場(仕事)を中心とした学びの文化を創り上げていくことで、学びが生産性向上に直結します。そこで重要になってくるのは「ワークフロー」という発想です。近年ではHR(人材育成)業界で「Learning in the flow of work(仕事の流れの中での学び)」という言葉が聞かれるようになりましたが、生産性の向上には、ワークフローを踏まえた学習設計が不可欠です。

また、職場実践を組み合わせることで、必要なときに必要な学びを設計する「ジャスト・イン・タイムの学習」が可能になるというメリットもあります。人は空腹のときのほうがよく食べます。学びもまた、必要なときに即時に提供したほうが吸収が早いということです。

 

・柔軟な学習提供が可能になる

テクノロジーで場所と時間の制約を超えることが可能になり、学習機会の選択肢が増えたことで、これまで学習を受けることができなかった人も受けられるようになりました。加えて、研修の内容をアーカイブ(保存)しておけば、過去の学習内容を必要なときに振り返ることもできます。また、通勤や移動中などの隙間時間に動画などを使って学習してもらうこともできるなど、柔軟な学習提供が可能になります。

 

研修現場に起きている変化

研修のオンライン化は急速に進んでいます。企業がデジタル技術を使ってビジネスに変革をもたらすために、「学びのDX(デジタル・トランスフォーメーション)」は最優先に取り組むべき課題です。

しかしながら、企業によって研修のオンライン化には対応が分かれています。通信環境やデバイスなどが十分に提供されていない企業や、短期間で形だけオンライン化している企業も少なくありません。また、デジタルデバイスを使うことや研修のオンライン化が主軸に置かれてしまい、DX対応そのものが「目的化」している側面もあります。デジタルデバイスの活用やオンライン化はあくまでも手段であり、DXは目的ではありません。

オンライン研修への移行もブレンディッドラーニングの導入も、企業にとっては新しい挑戦であり、そのためにはこれまでの考え方/やり方をドラスティックに変えていかなくてはなりません。企業は社会の変化を柔軟に受け止め、たおやかに変化を楽しむことが必要なのではないでしょうか。

ブレンディッドラーニング・デザイナー養成コースについて

日本フューチャーラーナーズ協会が開講している「ブレンディッドラーニング・デザイナー養成コース」は、学びのコンテンツ、デバイス、ツールなどの組み合わせによって効果的な社内研修や会議などを設計するための実践的な手法を学びます。完全オンライン対応の学習機会となっているので、これから常態化することが予想されるオンライン研修にも適用できます。講座では以下のスキルを身につけることができます。

1.新しいテクノロジーを活用し、主体的で協働的な学びを体験しながら、自分でも設計できるようになる

2.集合と個別、2つの学習機会を使い分け、学びの生産性を高めることができるようになる

3.効果的な学習機会を創出するために、既に確立されている理論と新しい理論の両面をおさえ、効果的な学習の場を企画・運営できるようになる

4.デジタル学習コンテンツ制作の基本を、自分自身でコンテンツ制作する実習を通して、時間もコストもかけずに制作できるようになる

5.新しい技術に関する情報を取捨選択する知識ベースをつくり、継続して学び合う仲間を得ることができるので、新しい学びの最新知識や生の事例収集が容易になる

学びは進化し続けています。旧来の学びは“教える”“コントロールする“ことをベースにした「教える人が主役」の学びでしたが、今は”主体的な学びを促進する“ことをベースにした「学ぶ人が主役」の学びに変わってきています。

「ブレンディッドラーニング・デザイナー養成コース」は、これからの学びを牽引する企業の経営者の方や人事・人材育成担当者の方には是非受講していただきたい講座となっております。ご興味のある方は、是非お気軽にお問い合わせください。

 

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これからの企業研修(育成現場)で求められてくるものとは

企業の人材育成担当者、つまりHRの役割について考える前に、企業における学び(学習)がなぜ必要なのか確認したいと思います。以下の4つの観点から考えることができます。

1 学習は多様化する仕事へのシフトを可能にし、成果を出せる人を育てる(「知っている」だけではなく「できる」ようになる)

2 学習は戦略実行のドライバーになる(ビジョンを伝え、対話、腹落ちして確実に実行してもらう)

3 学習は変化に対応し、イノベーションを生み出す(イノベーションは人との対話や異業種からの学びにより生み出される)

4 学習は従業員のエンゲージメントを高める(日々の仕事における成長実感、個別ニーズに対応した学習機会の提供やキャリア開発)

これらの観点から、ラーニング・ストラテジー(学習戦略)を構築・実行していくことがHRの役割です。そのための具体的な施策となるのが、「ラーニングエコシステム」の構築です。ラーニングエコシステムとは、「学びの場(コミュニティ)」「仕事の中での学び」「新しいスキルを試す場所」「ナレッジサポート」、そしてそれらをつなぐ「学習者の自律学習を支えるガイド(Pathways)」など、複数の学びを統合し、「ワークフロー」の中で学ぶ仕組みのことです。

HRは今後、このようなラーニング・エコシステムを社内に整備していかなければなりません。「ラーニング。エコシステム」は、環境を整備することで全員が積極的に学べる仕組みです。フォーマル・ラーニングだけでなく、インフォーマル・ラーニング(日常の学び)を自然なかたちで組み込んでいるのがポイントです。このように学びの文化を醸成して行くと、HRと企業戦略が結びつき、高い生産性と競争力を誇る未来の組織が生まれてくるのではないでしょうか。