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コラム

株式会社デンソー 人事部 中川浩人様

新しい学びをデザインする日本フューチャーラーナーズ協会です。私たちは企業研修をより効果的なものへ導く「ブレンディッドラーニング」という学びに注目しています。ブレンディッドラーニングとは、その名の通り複数の学びの手法を“ブレンド”して、それぞれの価値を最大限に引き出す学びの形態です。一般的には集合研修とeラーニングの組み合わせによるものが多く、欧米を中心に近年注目が集まっています。

この学びの形態を多くの人に周知させるべく、日本フューチャーラーナーズ協会では「ブレンディッドラーニング・ファシリテーター養成コース」を設け、ブレンディッドラーニングを実践できる人材を育成しております。

受講者は学びの分野で既に実績のあるプロの方が多く、新たな学びの手法を習得することによって、ご自身の活動をさらに昇華させようという志の高い方ばかりです。今回は受講者の一人である株式会社デンソーの中川浩人様にインタビューを行いました。

 

―中川様の普段の活動を教えて下さい

私は企業の人事部として日常的に様々な研修を行っています。新入社員や特定の管理職などに向けた階層別研修を業務としていますが、他にも必要に応じて個別研修なども行っています。ユニークなところでは人事部として組織開発も行っており最近はこちらが主業務になっています。人材開発ならまだしも組織開発と聞くと不思議な感じがするかもしれませんが“組織”も結局は人によって創られているものなので、そもそもこの2つはとても密接しています。組織を人と人との有機的な繋がりによって構成されている生命体のようなものと考えると、開発すべきが個人なのか組織なのかという違いとも言えるかも知れませんね。

 

―社内研修ではどのような課題を抱えていましたか?

人材開発の世界では知られていることですが、社員の学びの効果が何によって得られるかという問題を考えたときに、割合としては1(読書・研修):2(指導者の薫陶):7(経験)とされています。研修は1なんですよね。たったの1と思うかも知れませんがそれは貴重な1で、私たちはこの1をいかに7の経験に結びつけるかを常に考えています。結局のところゴールとするのは社員の職場におけるパフォーマンスの向上なので、そこにたどり着くための方法を模索しています。そして、この効果を測定するのも非常に難しい問題でして、明確な基準がないので評価をする人間の主観によるものになってしまいがちでした。そこで私たちは研修の効果や個々の到達度をフェアに測定するために、その測定方法を標準化することも課題だと感じて取り組んでいます。

 

「ブレンディッドラーニング・ファシリテーター養成コース」を受講されたきっかけは?

テクノロジーの発達に伴い学びも多様化していることによって、近年は人事を取り巻く状況も潮目が変わってきました。そんな中でブレンディッドラーニングは欧米では主流になりつつある学びの形態で私たちも前々から注目していたので、あらためて体系的に学んで社内研修に還元していこうと思ったわけです。私たちは趣向を凝らして様々な研修を行うわけですが、まさに研修をやっている時に良い学びの体験ができたとしても日常業務に戻るといとも簡単に忘れてしまう。学びの定着はフィードバックが大事なのですが、それが適切に行われていないことに歯がゆい思いをしていました。

しかしブレンディッドラーニングでは、学習者同士の学びと記憶の呼び起こしの部分でUMU(ユーム)というプラットフォームを導入してフィードバックを強化しています。そこに私たちは可能性を感じたのです。UMU(ユーム)の細かい機能については割愛しますが、お手持ちのモバイルにUMU(ユーム)を入れることによって、いつでもどこでも双方向型の学びが可能になり、個々の思考や体験が可視化され、かつそれらを共有できるというものです。

例えば組織開発ワークショップで合宿などを行ったときに、その場で学びの盛り上がりを見せたとしても、日常に戻るとその時の熱を忘れてしまう。しかし、UMU(ユーム)によって“その時”にダイレクトに立ち戻ることができ、小まめにフィードバックができるのです。各自でいつでもどこでも振り返りができるので、これこそが学びの定着には最適なツールだと思いました。効果的な学習方法を考えたときに、ツールの問題は大きいですよね。

 

―「ブレンディッドラーニング・ファシリテーター養成コース」を受講されて、研修にどのような変化がありました?

先ほども申し上げたように、学びの定着において効果を発揮していると思います。エビングハウスの忘却曲線はよく知られたところですが、それによると何かを学んだ後の記憶の保持率が一時間後には44%、一週間後には23%、一か月後には21%という恐ろしい結果となっています。しかし「ブレンディッドラーニング・ファシリテーター養成コース」を受講し、私たちが提案する学習のスタイルがより振り返りを重視したものになったので、社員の学びの定着率が上がってきました。

UMU(ユーム)は社員にとっても本当に使えるツールなようで、いつでもどこでも手のひらサイズで学びの振り返りができることや、視覚情報が多用されているのでより感覚的にアプローチができるのがいいみたいですね。振り返りが手軽になったことによって、復習の頻度も上がり学びの定着に繋がったというわけです。またワークショップではファシリテータが参加者の成果物の情報をリアルタイムにストックしていけるので、初めての人たちは先ほど議論したばかりのコンテンツが自分のスマホの中にあることを知ると「おおっ!?」と驚きの反応をみせ、振り返りの関心意欲が高まります。

 

―今後、ブレンディッドラーニングに期待することは?

まさに今、学びの環境はコロナウィルスの影響でかなりの制約を受けています。しかし制約を受けている部分としては集合研修で、それを補う形で逆にeラーニング研修が活発化しています。学校だけではなく企業研修でも状況は同じで、直近だと新入社員の研修期間を大幅に削減しなくてはならなくなりました。しかし集合研修を削減した分はリモートの双方向型のeラーニング研修で補えばいいわけで、私たちもいまこそがブレンディッドラーニングの効果を発揮するタイミングだと考えています。

今やeラーニングではかなりのことが可能になってきています。リアルタイムで思考や情報を共有し、対面している時と何ら変わりなくオンラインで双方向的な学びができます。もしかしたら、学びの効果や定着においてはリモートによるeラーニングの方が勝っているかもしれません。ブレンディッドラーニングもまだまだ発展できる余地があると思うので、私たちは1つの方法に固執せず、集合研修・オンライン講義・個別学習・反転授業と様々な特性をどのように組み合わせ学習設計を工夫しようかと探求が始まっています。今後eラーニングで可能な学びがさらに拡大されることを期待しています。