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コラム

オンライン研修導入事例:パーソルラーニング株式会社

新たな学びを構築するフューチャーラーナーズ協会です。

今、世界で起こっている非常事態の中では“集合”と“移動”に大きな制約がかかり、リモートによるオンライン研修の需要は急速に広まりました。とりわけ企業においては従来なら集合で行われていた新人研修を始め様々な研修をリモートで行わなければならないという必然も生まれ、多くの企業が大急ぎで導入を始めています。

そこで今回は、オンライン研修をいち早く導入したパーソルラーニング株式会社の森田氏にお話を伺い、導入に際して感じたことや苦労したこと、そして導入後の変化や効果などを率直に語っていただきました。

 

 

「お客様の先を行かなければならない」という気負い

―オンライン研修を導入することになったきっかけは?

今起こっている非常事態により社内でも社外でもオンライン研修のニーズは急激に高まりましたが、実は数年前から個人的にオンライン研修には注目していました。

パーソルラーニングは企業の人材育成や組織開発のお手伝いをしていますが、近年お客様である企業の人事担当者の方の関心がオンライン研修に向いていて、私たちもそれに追従する形で勉強をしていました。しかし、本来ならばサービスを提供する側の私たちの方がオンライン研修について明るくなければならないので、お客様の後ろを行くのではなく先を行かねばと思いオンライン研修について本格的に勉強し、現場でも実践し始めたのです。

どちらかというと、オンライン研修は社外で実践していることの方が多いですね。社内では今まさにオンライン研修の環境を整えている真っ最中で、知識の習得のような共通項目のオンライン化を急速に進めています。

しかし、今のような危機的状況が起こらなかったら、ここまでオンライン研修の整備が急速に進まなかったでしょうね。今は軒並み研修という研修がオンラインに切り替わっていますが、移行のスピードの速さは必然によるものが大きいかと思いますね。

 

指導者によるバラつきがオンライン研修によって改善される

―集合研修が主流だった時に感じていた問題点はありますか?

集合研修の場合だと、当たり前の話ですが生身の人間である研修講師が直接的に指導を行っていたので、良くも悪くも講師によって指導内容にバラつきがありました。また集合研修の場合は昔ながらの講義形式からなかなか脱却できずに、研修の中での双方向性がしばらくおろそかになっていました。集合研修でもいわゆるeラーニングとして動画や音声スライドを取り入れてはいたのですが、それもただ流しっぱなしで学び手の主体性を引き出すようなものではありませんでした。学びの中でアウトプットの機会が十分に用意されていなかったというのも問題だったと思います。

 

ほとんどの企業は集合研修のノウハウしか持ち合わせていなかった

―集合研修からオンライン研修への移行に際して、葛藤や抵抗はありましたか?

 時代の流れや今の危機的状況という必然がありながらも、企業が研修をオンライン化するには葛藤や抵抗があったのも事実です。

例に漏れず、私たち(パーソルラーニング)も対面式の集合研修をサービスとして30年やってきており、それを良しとする共通の認識があるばかりではなくノウハウの蓄積もあったので、すんなりと移行というわけにはいきませんでした。社内の大多数はオンライン研修といってもeラーニングで理解が止まってしまっている。しかし世界では日々新しい学びが生まれています。学びを提供する側にいる人間として、私は学びに対してももっと貪欲に見識を深め、社内にもそれを浸透させていきたいと思うようになりました。移行するにあたっての企業としての葛藤もあったかと思いますが、日本の人材開発が世界のスタンダードに追いついていないという葛藤も個人的にはありました。

 

「ブレンディッドラーニング」という学びの手法

―オンラインによる学びの手法の中で、森田さんが特に注目しているものは何ですか?

近年、欧米で主流になりつつある学びの手法で「ブレンディッドラーニング」というものがあり私も注目しています。ブレンディッドラーニングとは、一般的な理解でいうと複数の学びを“ブレンド”して新しい学びを構築するもので、集合と個別、オンラインとオフライン、インプットとアウトプットなどの手法による組み合わせから、テキストや動画などのコンテンツによる組み合わせまで、ブレンドされる要素は無数にあります。

そう聞くと「なんだ、要は混ぜるだけでいいのか」と思ってしまいがちですが、実際にブレンディッドラーニングによる学びを構築することは簡単なことではありません。それぞれの要素の特性をよく理解し、組み合わせによって起こる化学反応のようなものまで想定できていないと効果的なブレンドは実現できないのです。私はブレンディッドラーニングに関しては安易に扱うべきものではないと感じたので、手法をきちんと体系的に学ぶことにしました。

 

―「ブレンディッドラーニングファシリテーター養成講座」を受講したとお聞きしましたが、受講によって得た手応えやその後お仕事にどう還元されたかなどを教えてください

「ブレンディッドラーニングファシリテーター養成講座」を昨年受講しました。自分の仕事とは直接関係ありませんでしたが、社長に頼み込んで受講させてもらいました。

同期で受講したメンバーの中には、私のように会社に属していながらも個人の意思で受講を決めた方と、上層部から頼まれて会社の代表として受講に来られた方の両方がいました。いずれにしてもそれぞれが学びを会社に持ち帰って、習得した知識やノウハウを還元していかなければならないという重要な任務がありますので、みなさんそれは熱心に受講されていました。

これは率直な感想ですが「ブレンディッドラーニングファシリテーター養成講座」を受講した時の緊張感は体験したことのないものでした。講座は集合とオンラインの両方によるものでしたが、初回の顔合わせ前にも事前課題が出されていて、それぞれの回答がオンライン上で公開されていたのです。それはもうレベルが高くて…最初からすごいプレッシャーでしたね。集合研修においては緊張する場面と言ったらせいぜい発表するときくらいですが、この時ばかりは終始気を張っていましたね。ブレンディッドラーニングの手法を取り入れた良質なオンライン学習は学び手を絶えず刺激し、退屈させることも飽きさせることもないということを実感しました。

そして会社への還元という意味でいうと、会社の意向で受講に来ていた方に関しては、その会社がもともと先鋭的な体質で変革に対しても積極的な場合が多いので、持ち帰ってからの還元がしやすかったと思います。しかし、私のように個人の意思で受講した方に関しては、学んだ内容を還元するどころか、その学びに対する興味や関心を持たせるところから始めないといけないので苦労したと思います。私も会社に持ち帰ってからは、少しでも理解を示してくれそうな人に片っ端から直接話をするような作業をひたすら続けてきました。その甲斐あって今では社内でもすっかり理解が進み、サービスとしても提供できるレベルになりました。

 

集合研修とオンライン研修、設計するにあたっての最大の違い

―集合研修の設計とオンライン研修の設計、何が一番違いますか?

設計の前提となる部分や常識が全く違いますね。集合で当たり前だと思っていたことを頭から取り払わなければならないレベルです。

わかりやすい例でいうと、集合研修の場合は期間が“2日間”などと決まっていたので、その時その場所での学びに全てが集約されていました。そして研修を終えたらスパッと実務に戻るというように、学びと実践の住み分けがしっかりとされていたような状況でしたね。しかしオンライン研修の場合は、学びの始まりと終わりが個々のペースに委ねられるものもあるので学びと実践の境界がはっきりしていない。しかも管理側は個々の学びやその後の定着もトレースできるので、学びがいつまでも続いているような状況が双方で起こります。時間と場所の制約がなくなり学ぶ行為が細かく日常業務に入り込んできたことで、学びを提供する側も学び手も大きく意識を変えないといけませんね。

 

オンライン研修を導入するにあたって留意する点

―オンライン研修を実際に導入する際に気をつけたことは何ですか?

今の状況では100%リモートによるオンライン研修しかできないので、とにかく学び手の気持ちをあげるような働きかけをしました。実は集合研修よりもオンライン研修の方が離脱者や脱落者が多いという特徴がありまして、集合だったら場の縛りがあるので否が応でも最後までやり通すところを、オンラインではモチベーションが下がったり内容についていけなくなると途中抜けしてしまうこともあるのです。家でやっていると誘惑も多いですし、集合の時のように他者の視線に晒されていることもないので気が緩んでしまう可能性もありますよね。ですからオンライン研修では双方向性を随所に散りばめ、クイズ形式や質問形式などで学び手の主体性を引き出し、終始楽しく学びに取り組めるようにしました。

そう考えてみるとオンラインでの学びの構築はマーケティングに似ているところがありますよね。個々が持っている貴重な時間を勉強に振りわけてもらうわけですから。そこに価値を見出し、自分にとって有益なことであると思わせるためにはどうすればいいのか考えるのです。学びを自分ごととして捉え、貪欲に手を伸ばして学びを勝ち取るくらいになれば大成功と言えるのではないでしょうか。

 

集合の価値が精査される時代

―集合でしか成し得ない学びはあると思いますか?

容易に想像できることですが、集合研修では研修期間中に生身の人間同士による濃密な学びがリアルに展開されるため、受講者間で仲間意識が芽生えます。研修を通じてお互いの人となりがわかり、その場で確固たる人間関係が構築されます。これらは集合でしか成し得ないことだと思われていました。

ところが、このようなチームビルディングに関してはオンライン研修でもかなりのところまで可能であるということもわかってきました。例えば研修前に自己紹介動画をそれぞれ載せるようにしてもらったところ、会ったこともない相手を身近に感じ、関心を持ち、趣味が合う人たちでコミュニティのようなものまでできたと言います。グループワークの後の意見交換や講師と受講者による一対一の面談なども活発に行われたというので、もはや集合研修と何ら変わりないですよね。

こうなってくると集合研修の価値は二極化していくと思います。ただ単に集まることに意味を見出すイベントとしての集合研修と、とんでもないカリスマ講師による薫陶が期待できるスーパー集合研修。後者の場合は高くつきそうですけどね(笑)

 

今は学びの変革期。学びの始まりと終わりが曖昧になり、ゴールすらもないという状況

―学びの成果やゴールは、何を判断基準にするのですか?

オンライン研修への移行により、学びの始まりと終わりが曖昧になってきたことは先ほども言いましたが、何を持って終わりにするのかというゴールの定義も曖昧になってきました。

事前学習や研修中のフィードバック、その後のトラッキングなどを含めると、始まりも終わりも学び手に委ねられますし、オンラインの特性としてネットワークを駆使して学びをどこまでも深く掘り下げることもできます。学びの幅や奥行きに際限がなくなるということです。

そうなってくると、研修の成果を何で見るのかという視点も変わってくると思います。今までは、例えば集合研修の2日間でここまで到達してほしいという明確な目標あって、そこに到達することを研修の成果とみなしていました。しかし、オンライン研修では2日間の成果ということではなく、もっと長期的な視点で業務を進める上でのパフォーマンスで成果を見るようになります。このような学びは管理指導する立場としては大変です。短期間の集合研修だったときは学びの境界がはっきりしていたので手離れがよかったのですが、オンラインだと継続的に絡んでいかなければならない。その人のその後をトレースし、必要なタイミングで小出しに学びも提供するわけですから。

しかし、学びがこのように日常業務の中に入り込むことは歓迎すべきことなのかなとも思います。日本では大学に入学、あるいは会社に入社してしまえばそれでゴールというような風潮がありますが、本当はそうではない。この流れを変えていきたいと思っている企業もたくさんあります。オンラインによる学びが浸透していくことで、学びと実践が密接に関係し合いながら日常業務が行われる。それはつまり常に学ぶという組織風土に変わっていくことであり、この変化は望ましいことではないでしょうか。

 

―学びが日常業務の中に散りばめられることによって、どのような効果やメリットが生じますか?

学びの提供者と学び手が継続的に関わることで、リスクマネジメントの側面も併せ持つことができます。双方向の学びによって提供者つまり管理側は常に学び手=社員のリアクションを得ることができますし、そこにはメンタル的な要素も見え隠れするので仕事に対するモチベーションの変化なども把握できます。極端な話、会社をやめてしまいそうな兆候も察知できますよね。オンラインになるとあらゆるものが数値化されデータとして残るので、社員の機微が可視化でき、メンタルもフォローできる点もメリットとしてあると思います。

 

多様な学びによって、多様な人材が生まれる

―ブレンディッドラーニングを含むオンラインによる学びの多様化によって、企業に属する人材も多様になってくるのではないでしょうか?

 学びの多様化という意味では、手法の多様化と人材の多様化という2つの側面がありますね。手法の多様化では、テーマや目的ごとに手法が多様になるだけではなく個々の学び方も多様化できるわけで、その人に合った学びをカスタマイズすることも可能なのです。これはアダプティッドラーニングといって個別に効果的な学習を提供するものです。端的にいうと、ゴールが一緒でもプロセスが違うということですね。企業側に欲しい人材のイメージが明確にある時には、このようにプロセスを多様化してゴール設定を同じにするやり方もあるかと思います。

人材の多様化という意味では、今の時代の価値観が大きく関係しています。今は多様性の時代とも言われ「みんなちがってみんないい」に象徴されるように、個性が尊重される価値観が浸透してきました。企業にもよりますが、社員が画一的で同じような能力を持っているのではなく、それぞれの個性が際立っていてバリエーションに富んでいることが望ましいと考えるところも多くなってきております。そう考えると学びのゴール設定が個人個人で異なり、その結果多様な人材が生まれるということも企業にとっては“あり”なのです。

同じことを同じようにやってくれる能力はAIの方が格段に優れています。今、AIではない人間にこそ求められているのはユニークなソリュージョンを出す能力なのかもしれません。

多様な人材を受け入れることによって企業としての総合力が高まれば、それは健全な企業の成長と言えるのではないでしょうか。

 

学びのその先に 

―学びというものが、今後どのようになっていくと思いますか?

 今の危機的状況を見てもわかるように、世界が明日どうなるか誰にもわかりません。不確かなものだらけで、何を信じていいのかもわからないですよね。そんな中で生きていくには、世の中の変化を受け入れ自分もまた変わり続けるしかない。変容し続ける世界と共存するために自分もまた変容するというわけです。そのための“学び”だと私は考えています。学ぶことで変わる。そしてその変化を楽しむ。私は学びの提供者として、学びの面白さとその先にある豊かな世界を伝え続けたいと思っています。