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コラム

フューチャーラーナーズ協会 理事 小串記代インタビュー 「学びのこれまでとこれから」

新しい学びをデザインする日本フューチャーラーナーズ協会です。私たちは企業研修をより効果的なものへ導く「ブレンディッドラーニング」という学びに注目しています。ブレンディッドラーニングとは、その名の通り複数の学びの手法を“ブレンド”して、それぞれの価値を最大限に引き出す学びの形態です。一般的には集合研修とeラーニングの組み合わせによるものが多く、欧米を中心に近年注目が集まっています。

今回は協会の理事であり、長年に渡り人材開発分野の第一線で活躍してきた小串記代にインタビューを行いました。学びのこれまでとこれから、そして学びに対する自身の思いなどを現場の目線で熱く語ってくれました。

 

―小串さんと“学び”の関わりは、どのようにしてはじまりましたか?

私は、学ぶことは、自分の人生を広げ、より楽しく満ち足りたものにする、生きる術の一つだと考えています。学ぶことは、自分自身に向き合うことを通して、仕事、人生の選択肢を増やすことにつながると感じています。長い職業人生の中では、キャリアに迷うこともあります。私は、30代半ばでそういう時期に遭遇しました。自分は10年後にどういう姿でいたいのか、と悩み学び直しをした経験があります。その後、それまでの仕事を辞め、新たに人事・人材コンサルティング会社で再スタートを切りました。そこでも米国のアセスメント手法、トレーニングプログラムなど多くの刺激的な学びに出会い、学びが仕事になりました。それまでは、自分のための学びでしたが、学びを仕事にするようになってからは、「人が学ぶとはどういうことか」「どのようにしたら学びを深めていただけるのか」という問いに向き合う日々がはじまりました。人材開発の分野に入って、四半世紀以上になりますが、学びとの本当の意味での関わりは、この頃からになるでしょうね。

 

―富士ゼロックス総合教育研究所(2019年にパーソルホールディングス株式会社に全株式譲渡)には1996年から20年以上勤務し、2016年には社長になられましたよね。この歳月の中で、どのような学びの提案をしてきましたか?

富士ゼロックス総合教育研究所はその名の通りメーカーが設立した教育コンサルティング会社で、企業向けに営業、リーダーシップ・組織開発、プロジェクトマネジメント等の分野でサービスを提供していました。会社設立の背景には、富士ゼロックスの営業教育がお客様から評価が高く、「同じ教育を自社の社員にもしてほしい」というご要望があったこともあります。なので、設立当初から実践的、現場での実行定着ということを重視した人材開発サービスを大切にしてきました。自社開発とあわせて、米国パートナー企業の最先端のソリューションを導入し、それらを総合し、またお客様向けにカスタマイズをして、お客様企業の事業成果の創出につながる実践的なご支援を提案することを心がけてきました。研修で終わるのではなく、お客様が職場で自走化していただけるように、現状把握、企画設計、実施、定着フォロー、効果測定という一連のプロセスをご一緒に歩むご提案です。このように人と組織の両方を総合的に支援していくスタイルでコンサルティングを行っていました。

私が富士ゼロックス総合教育研究所にいた20数年の間にも時代は著しく変化し、ビジネスモデルも学びのトレンドも変わりました。時間の制約も増えました。研修で集合する場は、参加者同士の対話や気づきを深め、言い換えると、集合研修は考え方、やり方を学び、本番は職場での実践という色が濃くなりました。また、最近はテクノロジーを駆使して場所も時間も選ばすに学びが可能になってきています。そうなると研修そのものだけではなく、多様な価値観を持った個々人の学ぶ動機を維持し、主体性を引き出すにはどうしたらよいかが課題になってきます。学びの定着のためには、「タイムリー」な個々へのフィードバックとリフレクションのループが重要で、そこにもテクノロジーの活用が期待されています。10年程前には、学びがパフォーマンスにどれだけつながっているかを測定することに焦点があたった時代がありました。今日は、そのつながりがテクノロジーを使って見える化しやすくなってきたことにも期待します。

 

―長年学びの分野に身をおかれて、大きく変化した点として感じられることは?

学びに関する人の意識の面と、テクノロジーの進化です。

まず、人の意識の面ですが、今日ほど、「学び」が誰にとっても身近なテーマとして語られることはないということです。学びは提供されるだけではなく、学習者自らが考え自発的にその機会を創るものに変わってきていると感じています。自分の可能性を拓く機会として、これからの変化の時代をよりよく生きるために、自らが学ぶ意味、学び方を考えなければならない時代になったのは、大きな変化だと思います。「学び」は与えられるものではなく、自らが責任をもってその機会を創るものだという考えが社会に広がってきているのは、喜ばしいことですね。生きる、生き抜く=学ぶことという意識が増えてきたように思います。そして、一人で学ぶのではなく、他者から、仲間から学び合うことが重視されているように感じます。同時に、学ぶ意欲や好奇心が今後の格差を生んでいく時代に入ったという危惧もありますが。

次にテクノロジーの進化にともない、次の3つの傾向を感じています。

一つは、教育の民主化の加速です。多忙な学習者が自分のペースで学習し、場所を問わずオンライン上で誰とでも対話ができるようになりました。働き方を問わず、いつでもどこでも学べるようになりました。時間と場所の制約を超えることが、これからも新しい可能性を引き出すだろうと考えます。また、誰とでもつながれる状態は、組織を越えていろいろな人と情報共有できることが学びをより自由にします。ただし、その前提としては、学習意欲、主体性や継続性を確保することが必要ですね。

二つ目は、学びの舞台が職場・実践の場になってきたということです。学びが成果を上げるには、現場での実践が鍵となります。学びがクラスルームから職場に移ってきたことで、「知った」「わかった」から「できる」レベルへと変わっていかなければなりません。これを定着させるにはテクノロジーを活用した相互学習支援や学習コミュニティをつくること、さらには職場自体を学習する組織に変えていくことが必要になりますね。やり方の定着だけでなく、どうあるべきかを考える場をつくることも可能になりますね。

三つ目は、個を生かす学びが可能になってきたということです。どの企業も人材を一つの型にはめる教育は終わり、多様な人材を活かし育成することが求められています。人は振り返りがないと成長しません。一人ひとりに対応した内省支援が必要です。テクノロジーの進化で、個人データの蓄積を通してより個々の持ち味にあわせた振り返りや学習が可能になってくるでしょう。

これらの変化は、まだ途中段階ですが、今後益々加速していくと思います。

 

―学びの変化を受けて、フューチャーラーナーズ協会としての役割や使命をどのようにお考えですか?

私たちは、学びは人生を豊かにし、幸福感をもたらしてくれるものととらえています。使命としては、未来に向けて一人でも多くの人が“実りある学び”を得る機会を作り、個人の主体的な学びと成長、組織の学習を支援し、よりよい社会の発展に貢献することだと考えています。

その実現のために、私たちは、学びに関する世界の最新情報、新たなテクノロジー、実践ノウハウやショーケースを皆さんと共有し、お互いに学び合う安全な場、サードプレイスになりたいと思います。協会に賛同くださる皆さんと一緒に、日本の新たな”学び“の創造に向けて、新しい学びを支援する人材の育成にも力を入れていきます。

非常に近い将来には、ランゲージフリーで世界中の人とコミュニティが作られ、それぞれのテーマで学びあっているかもしれません。学ぶ意欲があれば益々世界が広がります。言語という障壁が取り払われるということは、日本にとって有利なことだと思います。

そういう近未来も視野に入れ、これからの学びをご一緒に探求し、日本から素晴らしい学びのリーダーが輩出される一助になりたいものです。

 

―最後に、学びについてどのような考えを持っているのかお聞かせください。

これからの時代は益々変化と複雑性、不確実性に満ちていると思います。自ら変化に適応していくためには、常にラーニングとアンラーニングを繰り返し、自己変革することが求められていると思います。「人生はラーニング・ジャーニー」と言われる通り学びの連続です。長い人生でラーニング・ジャーニーを歩み続けるには、学ぶ姿勢として「謙虚さと勇気」が求められると思います。

人間はそもそも自分の考えや意見を否定されることを嫌います。私自身も人にどう見られるかを気にすることもあります。仕事経験が長くなると成功体験も増えます。気づかないうちに自分の経験に傲慢になることもあります。結果としてつまらない防衛心が働くこともあります。しかし、それは自ら新たな学びの機会を閉じていることになると気づきました。謙虚でなければ学べない。謙虚であるがゆえに、学びを継続することができると感じています。組織の中で自分の役割が変わり、また年を重ねても学び続けるには、意図的に自分の姿勢を正していないと学びの扉はすぐに閉まってしまいます。謙虚であるためには人間が自分を守るという本能を乗り越える努力をしなければならないと思います。それには、勇気が必要です。知らないと言える勇気、自分をありのままに見せる勇気、弱さを見せる勇気です。

私たちフューチャーラーナーズ協会は、ラーニング・ジャーニーを歩む皆さんが安心して語り合い、考え、新たな学びに挑戦し続けるコミュニティの役割を果たせることを願ってこれからも活動を続けます。