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コラム

ブレンディッドラーニングの思考法

新たな学びを構築する日本フューチャーラーナーズ協会です。

今回は当協会でも研究に力を入れている新しい学びの形態「ブレンディッドラーニング」についてあらためてお話したいと思います。

日本フューチャーラーナーズ協会が考えるブレンディッドラーニングとは

 ブレンディッドラーニングの概念は時代とともに変化しているので、実は確固たる定義がないというのが事実です。テクノロジーの発達により可能なことが増えて、ブレンドされるコンテンツも多様化の一途をたどっているので、昔のブレンディッドラーニングと今のブレンディッドラーニングは全く違うものになっています。そのような中では、むしろ定義を固定しないことの方が重要だという考えもあります。

しかし「日本フューチャーラーナーズ協会が考える、今現在の、企業におけるブレンディッドラーニングとは」という括りで言わせてもらえば、それは「複数の学習シーン、コンテンツを組み合わせて、成果につながる学習コースを設計する」ことに尽きると思います。

複数の学習シーンというのは集合、オンライン、自己学習などの“学習環境”のことで、複数のコンテンツとは資料、写真、イラスト、WEB記事、SNS、動画などの“学習素材”のことです。実際にはこれらの他に手法のバリエーションや参加者(学び手)のバリエーションも加わって、ブレンドされる諸要素の組み合わせパターンは何万通りにもなります。

成果につながる学習コース設計というのは、企業におけるブレンディッドラーニングの目的が「職場におけるパフォーマンスの向上」だということに直結しています。もともとブレンディッドラーニングは教育現場で使われていた手法の一つだったのですが、企業にも適用されるようになった時に教育現場のそれと差別化するためにこのような明確な目的を持たせました。

そしてブレンディッドラーニングに時間軸を入れて考えた時に、始まりと終わりの定義が曖昧になってきていることも最近の傾向です。というのも、パフォーマンスの向上の先にある“パフォーマンスの定着”までを見据えた場合、学びが継続的なものになることも十分に考えられるので、従来の集合研修のように期間限定のものではなくなってくるのです。

ブレンディッドラーニングは提供する側もまだまだ模索段階ではありますが、それだけ可能性を含んだ豊かな手法であることは確かです。

 

ブレンディッドラーニング設計の手引き

ブレンディッドラーニングはとにかく設計が重要です。設計次第で良質なものにもなりますし、逆に粗悪なものにもなってしまいます。学びの目的に応じてブレンドの手法は変わってきますが、総じて言えることは学び手の集中時間の限界を考えて慎重にコンテンツを組み立てブレンドすることです。

通常、集合型の場合では8分に1回、オンラインでは4分に1回の割合で何かしらのインターバルを入れるのが理想とされています。ところが企業の中には8時間続けてズームによるオンライン研修を実施してしまったところもあり、これは明らかに学び手の集中力を超えてしまっているので成果には繋がらなかったそうです。学びを設計する段階で学習の科学(ラーニングサイエンス)というものをよく理解していればこのようなことにはならないので、提供側のスキルが問われるのがブレンディッドラーニングとも言えます。以下で設計の際に押さえておくと良い観点をご紹介します。

【学習効果測定モデル】

学びの効果や定着の測定方法を標準化することです。レベルごとに到達目標を明確にし、学び手ステップアップの道筋をつけます。一時的な到達ではなく長期的な定着を目指します。

【学習者中心のデザイン】

学び手の視点に立って、学び手がどのような学びの体験(Learner Experience Design)をするのかを考えます。学びの中に物語性を取り入れ感情曲線にもアプローチします。

【学習効果を高める設計理論】

研修の「事前」「事後」を充実させます。研修前の事前学習の促進、研修後の現場定着までのサポートを行います。

【学習を継続するための仕掛け】

学び手のやる気やモチベーションを保つための仕掛けです。双方向性を持たせ質問やクイズ形式を取り入れながら、学び手を飽きさせないことが重要です。

これらの他に、最近では学びを個別にカスタマイズするアダプティッドラーニングの手法までがブレンディッドラーニングの一環で取り入れられるようになりました。学びを提供する側は常に「効果」「コスト」「効率」の3つを考えて設計しているので、このようにブレンディッドラーニングが学び手にとって有益なものへと進化してくことは歓迎すべきことだと言えるのではないでしょうか。

 

学びをブレンドすることの意味

 私たちがブレンディッドラーニングを推奨する最大の理由は、それがイベントとしての学びではなくコースとしての学びだからです。ブレンディッドラーニングという言葉にある“ラーニング”にはプロセスまでもが含まれていて、それは決して見切りの良い単発のイベントとしての学びではなく継続的なコースとしての学びということなのです。

継続的なコースとは、事前、当日、事後の一連の流れの中で学びが細切れに提供され、さらには実務の中にまで入り込む状況のことです。イベントとしての学びは研修が中心でしたが、コースとしての学びは職場が中心で、学び手は実務をしながら学び続けることになります。行動指摘やフィードバックなどが日常化し、振り返りも学び手が好きな場所で好きなタイミングで行うことができます。

これらは集合型の期間限定の学びでは実現し得なかったことであり、テクノロジーの発達により可能になった学びのツール、コンテンツ、手法などを柔軟に取り入れたから実現できることなのでしょう。

とはいえ、私たちは集合研修を否定しているわけではありません。ブレンディッドラーニングを始めとして新しい学びというものは、過去の学びの代替手段として成立しているものではないからです。それは新たに加わった選択肢のひとつに過ぎません。集合研修というリアルな現場で一人の講師から受けた薫陶が、その後もずっと持続するということも歓迎すべきことだと思います。しかし考えようによっては、その講師の講義をオンラインで配信して世界中に広めることもできるということです。学習の場が世界に変わるのです。

ブレンディッドラーニングによってインプットが広がると、異質な価値観に触れる機会が多くなります。やがてそれらに慣れてくると、学び手は異質なものに対して寛容になってきます。つまり世界の多様さを日常的にインプットし続けることで視野が広がり、描ける未来も変わってくるのです。ブレンディッドラーニングとは、これからの時代を生きるための学びでもあるのです。

 

ファシリテーターの役割

ブレンディッドラーニングにはファシリテーターが必要です。学びを円滑に進めるために、そして効果を最大化するために、ファシリテーターは学び手が躊躇することなく発言できる安心安全な環境づくりや双方向性の促進など、学び手目線で学びの現場をサポートします。さらにファシリテーターは研修期間中だけではなく、研修の事前、事後もサポートします。学んだことを現場で実践“する”のではなく“し続ける”ために、必要なタイミングで必要な学びを提供するというので、その関わりは一過性のものではありません。

かと言って、ファシリテーターは必ずしもべったりと伴走するわけではありません。ブレンディッドラーニングでは、テクノロジーを活用して自動化できる部分と人力でやる部分との組み合わせが可能なので、ファシリテーターだけに学びのサポートが委ねられているわけではないのです。いずれにしても、従来の集合研修の“講師”とはまた違った役割が求められていることは確かです。

 

未来の学びと課題

ブレンディッドラーニングによって学習の可能性は大きく広がりました。家にいながら世界を垣間見ることができ、日常的に多様な価値観に触れる機会も多くなりました。学習環境も劇的に改善され、私たちはその気さえあればどこでも学びにアクセスできるという恵まれた時代にいます。

そして、そこに課題もあります。未来の学びを享受するにはデジタルデバイスが広く行き渡っていて、一人一人のITスキルが一定以上であるという前提があります。残念ながら世界中の学び手は平等なテクノロジー環境にいるわけではありません。そのギャップを埋めてくことも私たちの課題の一つです。

学びによってできることが増える。そしてできることが増えると描ける夢が増え、人生が豊かになる…未来の学びは、人生に無数の選択肢を与えます。学ぶことは、答えのない世界で解決策をみつける唯一の方法ではないでしょうか。

 

ブレンディッドラーニング・デザイナー養成コース

日本フューチャーラーナーズ協会では、ブレンディッドラーニング・デザイナー養成コースを開設しています。ブレンディッドラーニング・デザイナー養成コースを受講することで学習が定着するまでの流れを設計できるようになります。従来の集合研修だけでは得られなかった効果を発揮することで、研修・セミナーの価値が大きく向上します。

 

ブレンディッドラーニング・デザイナー養成コースの詳細はこちら