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コラム

企業研修をオンライン化する方法を実例とともに学ぶ

新たな学びを構築する日本フューチャーラーナーズ協会です。

企業研修のオンライン化はコロナ禍の必然として加速し、今ではすっかり定番のスタイルになりつつあります。手探りで方法を模索していた3月、4月とは状況が変わって、ここ最近のオンライン研修のバリエーションには目を見張るばかりです。

そこで今回は研修のオンライン化にあたっての注意点を今一度確認し、成功事例をいくつかご紹介しながら効果的なオンライン研修というものについてあらためて考えてみたいと思います。

 

オンライン研修=動画の配信ではない!

 集合研修をオンライン化する時にやってしまいがちなのは、既存のコンテンツをそのままオンラインに載せて配信してしまうこと。集合研修で行われていた講義を同じ内容、同じ長さでオンライン化してしまおうという発想です。しかも、完成度を追求して何回も撮りなおしたり、映像効果を狙って凝った編集を加えたりする研修担当者までいるので、制作には膨大な時間がかかってしまうこともあります。

しかし、残念ながら完成度の高いオンラインコンテンツが学習効果が高いとは限りません。もし動画コンテンツを制作するのであれば、写真と音声を使用した動画スライド程度で十分かと思います。これくらいシンプルな方が記憶に残るのです。

そして無駄がなく言い淀みのない完璧なレクチャーや過剰な演出がなされた映像などは、かえって記憶に定着しないものです。集合研修を考えてみても、教科書をなぞったような講義よりもちょっとした脱線や不自然な間合いなどが挿入された講義の方が学び手の興味を引きます。良い意味で提供側の“手垢”のついたコンテンツの方が記憶に定着するのですね。

これらのことを踏まえると、動画コンテンツの制作に時間をかけるくらいだったら、いっそのこと生配信のレクチャーにすることをお勧めします。ワンテイクしかないぶっつけ本番の方がお互いにとって緊張感のあるものになり、より高い集中力でコンテンツに向かい合うことができるでしょう。

研修のオンライン化の実例を紹介

1、双方向性によるモチベーションの維持、チーム力の強化

大手アパレルT社ではオンラインによるディスカッションやアンケート、ノートなど双方向性の機能をフルに活用し、販売員トレーニングと新人研修を行いました。全国の拠点に広がる販売員に対しては、トップや部長メッセージに対して販売員が直接コメントできるなどの対話型の機能を持たせ、場所に関係なく直接的な繋がりを持てる環境を実現しました。4月のコロナ禍による不安定な営業状況の中で現場販売員に対して社長が毎週のようにメッセージを配信し続けたことは大きかったようです。メッセージは販売員に対する“感謝”の気持ち、健康への“気遣い”、そしてこのような状況の中でも刺激しあい知識を広げることも大切だという“啓蒙”…これらすべての要素が心のこもった温かい言葉で綴られ、販売員の感情を揺さぶりました。また社長以外の経営陣や部長クラスの方々も、この時期は積極的に動画メッセージなどを配信して、販売員を励まし続けました。これらによって営業自粛中のメンタルもフォローでき、現場の不安な気持ちは解消され、あらためて販売員としてのマインドセットができたようです。

 

2、学びのコンパクト化、フロントランナーの孤独を回避

製薬会社のA社では、医薬品適正使用のために医療従事者を訪問するMR(医薬情報担当者)教育でオンライン化を実現しました。移動の多いMRにとっては隙間時間を使って学べるお手軽で楽しいプラットプラットフォームを用意することによって学びのコンパクト化をはかりました。また単独行動が多く孤独になりがちなMR同士をオンラインの学びによって繋ぐという目的のもと独自のコンテンツが生まれました。

具体的には移動時間などで隙間学習ができるように「1分でわかる」シリーズを作成。また、疾患別情報提供と質問受付コーナーをセットにして質問形式の簡素化を図りました。そしてMR同士の横の連携という部分では「MRチャンネル」を開設し、MRの現場での取り組みを動画で見られるコーナーをつくりました。日頃のお互いの動きを知ることのないMR同士がこの機能によって繋がり、仲間意識が芽生え、「MRチャンネル」は単なる情報共有と学びの場を超えた役割を持つことになりました。

 

3、社内に学びの文化を促進

 IT企業のM社では年間を通じて社員をオンラインでフォローし、学び合いの風土を会社に根付かせました。

内定者研修、新人研修を例にとると、入社前の2月から入社後の翌3月まで何らかのオンラインによる学びが日常業務と並行して起こりました。最初は「マインドセット」「ビジネスの基礎習得」「専門スキルの基礎習得」などの知識習得、それから「アンケート」「ワークショップ」などによって個性や主体性を引き出しました。さらにはその日の感情を晴れ、曇りなど天気によって知らせる「毎日のモチベーションチェック」も取り入れ、新入社員のメンタル管理も積極的に行いました。

管理職・メンターフォローアップ研修では「管理者として必要なマインド・視点の醸成」「管理者として必要なビジネススキルの習得」などのプログラムを用意し、年間を通じてインタラクティブな交流による思考力強化を行いました。また、各部ごとに策定した施策を発表し合うプレゼンコンクールを実施し、切磋琢磨し合えるよう環境を用意しました。

M社にとって研修のオンライン化は、社内に学び合いの文化を醸成したいという目的だったので、導入当初はコンテンツを詰め込み過ぎて社員が消化できないこともありました。そこですぐにコンテンツを見直し、社員が負担と感じない現実的なコンテンツに改善されました。今後はさらに学びを推し進めてアダプティッドラーニングの取り入れも検討しているそうです。

 

研修担当者は必読!オンライン化のポイント

 オンライン化の方法に正解はありません。しかし、逆に言うと不正解つまりNGと言える方法はいくつかあります。以下に例としてご紹介しますが、考え方としては集合研修でよしとされていたこと/当たり前だったことをそのまま適用するべきではないと言うことです。オンライン化への移行はテクニックの問題ではなく、もっと根本的なところから大胆に変化を加えるものです。集合研修で行われていたことをひとつひとつ紐解いて、オンラインになった時に最も効果を発揮する方法を模索して下さい。

 

オンライン時の集中力は対面時よりも短い!コンテンツの長さには注意しよう

 オンラインにおける集中力の限界は対面時よりも大幅に短いというデータがあります。例えば対面で60分間講義を受けるのと、オンラインで同じく60分間講義を受けるのとではストレスや疲れ方が全然違うそうです。通信の不具合や雑音などで、対面よりも注意力が必要なことも原因として考えられますよね。

これらのことを踏まえてオンライン学習コンテンツを細分化するマイクロラーニングという手法がありますが、そこでは一つのコンテンツが1~5分程度と本当に短いのです。短すぎる!と思うかもしれませんが学習の科学という観点では実に理にかなっているのです。

そもそも人間の集中時間には限界があり、25分以上の集中は脳が消耗していくということが生理学で解明されています。1~5分とまではいかなくとも、せめて15分くらいを一区切りとして、途中でアンケートやクイズなどを取り入れながらオンライン研修を設計していくことが望ましいでしょう。

双方向性はマストではない!目的に応じて慎重に取り入れよう

 オンライン研修に双方向性を取り入れるにあたっては、その学びの目的を第一に考えなくてはなりません。双方向性は特定の学びに対しては効果を発揮しますが、相性があまりよくない種類の学びもあるからです。

例えば知識獲得を目的とした学びでは双方向性は不要で、ここでは一方向的にひたすら知識を与える方が効果的です。集中力の限界という意味で15~20分ごとにクイズやアンケートを入れるにしても、そこで議論が展開されるような双方向性はふさわしくないと思います。ここで必要なのは形を変えない強度のある学びなのです。

また、双方向性は取り入れ方によっては集中したい気持ちを削ぐノイズのようなものになります。塾考する時間、内省する時間などを必要とする学びでは、学び手のペースを尊重しましょう。

 

ガイドラインを示して迷子を防ごう!

オンラインという性質上、操作の問題を無視するわけにはいきません。ボタン一つで全く違う世界へ連れて行かれてしまうのが良くも悪くもオンラインの性質で、操作をひとつでも誤るとたちまち学びから脱落してしまうのです。

そこでオンライン研修では、丁寧すぎるガ操作のガイドラインと講義中の声掛けが必要になってきます。オンライン研修への入り方に始まり進行につれて必要になってくる各種操作の方法など、過剰なくらいに細かく説明して下さい。ここで躓きがあると、たちまち学習意欲が低下してしまうからです。「これくらいはわかっているはず」「これくらいのことはできるはず」と相手を過信せずに、どもまでも優しく丁寧に導いて学び手を安心させてあげましょう。

そして経験を積んだ熟練の講師であればあるほど、講義の途中に「何か困っていることはありませんか?」「話のスピードはどうですか?」「こちらの趣旨は伝わってますか?」などの問いかけを入れるそうです。相手あっての学びであり、一番に考えなくてはいけないのは学び手の気持ちです。オンライン化のテクニックを磨くよりも、講師の思いやりひとつで研修は効果を発揮するのです。

 

ブレンディッドラーニング・デザイナー養成コース案内

 オンラインの企業研修を設計するにあたって必要なスキルを確実に学ぶための講座として「ブレンディッドラーニング・デザイナー養成コース」があります。講座では「オンライン学習」 と 「従来の(集合)学習」 をブレンドさせ、企業研修を効果的に促進する手法を学びます。

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