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コラム

学びの場にも創造の場にも適応できる究極のスキル“ファシリテーション”とは?

新たな学びを構築する日本フューチャーラーナーズ協会です。

昨今の社会情勢の変化により、私たちの“集いの形“は大きく変化しました。リモート、リモートと集合のブレンド、人数や距離の制約がある中での集合…集いの目的に応じて何とか最適な形を見つけようと私たちは日々試行錯誤している状況です。

慣れない環境の中でどのように場を活性化させ、ストレスなく人と人が関わっていけるのか。今回ご紹介する“ファシリテーション”というスキルは、まさにこの問題に真正面からアプローチし、様々な解決のヒントを与えてくれるものとなっています。ファシリテーションの意味、ファシリテーターとして必要なスキル、役割などについて日本ファシリテーション協会の会長、竹本記子氏にお話を伺いました。

 

ファシリテーションとは?

ファシリテーションという言葉を聞いたことはあるけれど、実は正しく理解していないという方もいらっしゃるかと思います。仕切ること?進行すること?そんなイメージで止まっているかもしれませんね。ここで簡単に説明させていただきます。

ファシリテーション(facilitation)とは、ファシリテート(facilitate)の意味の「容易にする、楽にする、促進する」からきています。例えば会議などでは発言や参加を促したり話の流れを整理するなどして、場が円滑に進行するように中立的な立場でサポートを行うことが会議のファシリテーションで、それをやる人がファシリテーターというわけです。会議に限らず教育や創造の現場でもファシリテーションは適応可能で、人との関わり方が大きく変わった今、その役割はいろいろな意味で注目されています。

日本ファシリテーション協会を設立した背景は?

日本ファシリテーション協会の設立は2003年になります。ファシリテーションという概念は1960年頃からアメリカでは既にあったのですが、それがビジネスの分野に応用されるようになってきたのが1970年頃で、少し遅れて日本にも入ってきたというのがざっくりとした流れです。当初はまだまだ知る人ぞ知る分野で、ファシリテーションと言っても「何それ?」という反応がほとんどだったのですが、2000年頃からようやく注目され始めました。

日本ファシリテーション協会の設立経緯はユニークで、立ち上げメンバーの一人である堀公俊が著書の中で「ファシリテーションについて考えてみようよ」と呼びかけたことから始まりました。思いがけずメンバーが集まり、引くに引けなくなったというのが設立の経緯です。設立当時、自律分散型社会の到来にファシリテーションが必要と考え、リナックスモデル、ナショナル・センターを目指していました。人・組織・社会にとって本当に必要なことが知られていないという問題意識のもと、大きなムーブメントをつくらないといけなかったのですが 、①統一理論としてファシリテーションの定義、スキルセット、ツール、実践ノウハウを探求すること、 ②オープンソース、自律分散型運営、多神教(リナックス・モデル)で活動すること、 ③ネットワーキングを重視するNPO法人として設立するという、3つの観点を重視したと創始者の堀から聞きました。設立当初から「調査・研究」「教育・普及」「支援・助言」「交流・親睦」の4つの事業に取り組み、とにかく自分たちが知識や経験を深め、かつそれを広く伝えていこうという高い志がありました。現在も4つの事業で多角的に活動しています。

協会のメンバーは活動分野もそれぞれで、ファシリテーションのやり方も一様ではありません。本来ファシリテーションとはそれくらい幅の広いものであるはずなので、私たちはあえてやり方を統一しようとはしていません。協会に資格制度がないのはそのためです。「私たちは一神教ではなく多神教なんだよ」とよく言っています(笑)。しかし、何でもありというわけではありません。それぞれが異なったやり方でファシリテーションを実践している中で「本質ってなんだろう?」「共通して大事にするべきことは?」など、全体を貫く理念や概念なども追求しています。

私たちもトライアンドエラーの日々ですが、それそれが現場経験を持ちよって、お互いにフィードバックし合い、そして少しでも成長していけるように日々活動しています。

 

日本におけるファシリテーションはどう変わってきていますか?

認知度として上がってきていることは確かです。私たちは数年に一回白書を発行するために様々な統計やデータを取っているのですが、例えば“ファシリテーション”という言葉が用いられている大学の授業カリキュラムの数などを調べると、年々増えてきているという事実があります。しかし、私がファシリテーターとして活動する中で感じていることは「まだまだ浸透していないな」と言うのが正直なところです。自分のやっていることがファシリテーションだと自覚のない中で、長年やっていらっしゃるような方もいますし、あるいは似たような役割の人に対して、他の呼び方を適用させてしまっている場合もあります。ファシリテーションの定義はある程度確立されてきているので、正しい理解を広める必要性は感じます。昨今の社会情勢の変化で、人と人との関わり方や場の作り方も大きく変わりました。そのような時こそ、ファシリテーターの貢献できるところは大いにあるのではないでしょうか。

 

ファシリテーターの役割を教えてください

「自分たちがどうあるべきなのか?」「どのようなスタンスをとることが理想なのか?」という問題はいくら議論を重ねても確固たる答えを見つけることはできません。ファシリテーターの仕事としては、会議などの話し合いの場の活性化や促進ということになりますが、その先の話として、ファシリテーターとしての“あり方“の話をさせていただきたいと思います。

まず、どんな存在として場にいることが理想なのか。これはかなり分かれる議論になりますね。透明な存在として、なるべく個性を出さないようにひたすら場を活性化する黒子のような存在であるべきだという人がいる一方で、存在感も個性も出して場を構成する要素の一人として存在してもよいという人もいます。私は絶対的に後者ですね。存在感なんか消せるわけがないですよ(笑)。とはいえ場の空気を読んで、状況に応じて出す出さないは調整しているつもりです。

そして内容への関与の度合いについて。例えば話し合いの主題に関する情報や資料などが事前に用意されていたとします。それぞれが持ち寄る場合もありますね。これらを素材だとすると、私たちがそこに関与することは基本的にはありません。話し合いの場が“料理をつくる”ことだとしたら、その調理方法についてアドバイスすることもありますが。素材に対して口出しすることはないということです。そこはやはり一参加者とは違いますね。ただ、調理というプロセスには積極的に関与するので、最高の料理が完成するように全力でサポートはしますよ。

最後に目的とゴールについて。ファシリテーターは話し合いに落としどころを設定し、そこに向かって場をぐいぐいとリードするようなことはしません。参加者同士の相互作用を促し、主体性を引き出すことによって自分たちで自発的にゴールに向かうように働きかけるのがファシリテーターです。ただ、話し合いの目的というものはブレないように気を付けます。その目的に向かうための方法はひとつではない。もしかしたらゴールが途中で変わることもあるかもしれない。なんらかの手応えを掴み、発展的・生産的な見解を得ることができるのであれば、ゴールがAからBに変わることは大きな問題ではありません。何のための話し合いなのかということはしっかりと理解した上で、向かうゴールは柔軟に変えることもありなのかなと思っています。

ファシリテーターに必要なスキルはなんですか?

ファシリテーターに求められるスキルは広範囲に及びます。活用シーンによっても変わってきますが、ここでは一般的な話し合いの場におけるファシリテーションに必要なスキルとして、以下の4つをご紹介したいと思います。

  1. 場のデザインのスキル ~場をつくり、つなげる~

何を目的にして、誰を集めて、どういうやり方で議論していくのか、話し合いの段取りからファシリテーションは始まります。最適な議論の進め方や論点を提案して、メンバーに共有してもらわなければなりません。単に人が集まってもチームにはならず、目標の共有から共同意欲の醸成まで、チームビルディングの良し悪しがその後の活動を左右します。

あわせて、討議の時間やメンバー同士の関係性を適切にデザインして、話しやすい場を用意する必要があります。人は環境によって振る舞い方が大きく変わるからです。ファシリテーターがどういう構えで場に臨むのかも見逃せない要素です。

 

  1. 対人関係のスキル ~受け止め、引き出す~

話し合いが始まれば、できるだけたくさんの意見や考えを出し合い、理解と共感を深めながらアイデアを広げていきます。これを発散と呼びます。すべて出し尽くすことで、これから生み出す結論への合理性と納得感を高めていきます。

このときファシリテーターは、しっかりとメッセージを受け止め、発言者を勇気づけ、心の底にある本当の思いを引き出していかなければなりません。それと同時に、意見と意見の連鎖をつくり、幅広い論点で考えられるようにします。具体的には、傾聴、応答、観察、質問などのコミュニケーション系(右脳系・対人系)のスキルが求められます。

 

  1. 構造化のスキル ~かみ合わせ、整理する~

発散がうまくいけば、自然と収束に向けての気運が生まれてきます。タイミングを見計らい、個々の意見を分かりやすく整理して、しっかりとかみ合わせていきます。その上で、議論の全体像を整理して、議論すべき論点を絞り込んでいきます。そのときに威力を発揮するのが、議論を分かりやすく「見える化」するファシリテーション・グラフィックです。

ここではロジカルシンキングをはじめとする、思考系(左脳系・論理系)のスキルの出番となります。物事の枠組みを表すフレームワーク(構造化ツール)を臨機応変に活用すれば、効率よく議論が展開できます。

 

  1. 合意形成のスキル ~まとめて、分かち合う~

結論の方向性が絞られてきたら、いよいよ決定です。なにを基準にして最適な選択肢を選ぶのか、異なる意見をどうやって融合させるのか、決め方を決めなければいけません。

この時に避けて通れないのが意見の対立です。コンフリクト・マネジメントのスキルを使って適切に対処すれば、創造的な結論が得られ、チームの結束力も高まります。ファシリテーターの力量が最も問われるところです。首尾よく合意ができれば、結論やアクションプランを確認し、話し合いを振り返って次に向けての糧としていきます。

参考文献:
堀公俊 『ファシリテーション入門』(日経文庫)
堀公俊 『組織変革ファシリテーター』(東洋経済新報社)

 

(以上4つ、日本ファシリテーション協会HPより抜粋)

 

オンライン会議/研修におけるファシリテーターの必要性は感じますか?

必要性という意味では、リアルな集合の場でもオンラインの場でも同様に感じています。オンラインだから特に必要ということではないですね。“あり方”と“やり方”の話で言うと、ファシリテーターとしての“あり方”はどちらもさほど変わらないと思いますが、やり方の部分では大きな違いがありますね。

これは既に方々で言われていることですが、オンラインによる集まりでは参加者の感情の機微を拾うことが難しいです。特に私は感性が強いタイプなので、場の空気感や個々が持っているエネルギーみたいなものを感じることができないのは辛いですね。しかし、今後ますますオンライン化は加速すると思うので、そうも言ってられない現実があります。私も含め、まだみんなオンラインで集うという状況に十分に慣れていないと思うので、オンラインならではの緊張感を少しでも和らげるために「画面暗くない?」「顔が怖く映ってない?」などあえて素朴な疑問や問いかけを入れるようにしています。テクニカルな部分で失敗しないようにと気を張っている方もいるので、そのような方に対しての働きかけはファシリテーターとしてやるべきことなのではないでしょうか。

オンライン会議/研修で気を付けていることは?

オンラインという環境では、参加度のさじ加減がなかなかわからないものです。前のめりにガンガンいっていいのか、あるいは周りの様子を見て出し方を調整すればいいのか迷ってしまいますよね。私が最初に大切にしていることは参加者が安心してオンラインの場に参加できるように、参加者の自由度をデザインすることです。

例えば発言の場において最初は指名制にして、順番に全員が発言するような機会をつくります。次の段階として、挙手を促し主体的な発言を引き出すようにします。そして最後には自由に話し合いをするという環境を用意します。このように参加に対する自由度を徐々に上げて行くことで、参加者は余計な心配をしないで済むようになるのです。規則やルールのようにガチガチなものではなく、秩序くらいのゆるりとしたイメージが近いかもしれませんね。

対面の内容を仕方がないからそのままオンラインに、ではなくオンラインの特性を活かした場のデザインをつくりあげることが大事だと思います。

 

ファシリテーションの可能性

私はどんな場においても、ファシリテーターとして入った場合は必ず参加者の成長と可能性を信じて働きかけるように心がけています。この“信じる”というスタンスは、参加者に対してだけではなく、仲間に対しても同じことが言えますね。進行のもたつきや操作ミスなどは大きな問題ではありません。もし仲間のファシリテーターが緊張してしまうような場になっていたら、それを和らげるのも私の役割だと思っています。失敗が許されないような空気では能力を発揮できません。相手を信じ切って安心させてあげることですね。

日本ファシリテーション協会もまだまだ進化の過程にありますし、私もファシリテーターとして日々学び、より良い社会を実現していく上で一助になればと願って活動しております。慣れない集いの形の中で、参加者がストレスなく能力を発揮できるようにすることもファシリテーションの一環なので、是非とも私たちの存在を知って理解を深めて欲しいと思っております。